2013年度の例会活動のご報告
関西ベンチャー学会は2013年度の例会(シンポジウム)を9月に開催しました。概要は以下の通りです。
【関西ベンチャー学会 2013年度シンポジウム】
テーマ 「ミャンマー、バングラデシュ・・・・ 新・新興国のビジネスチャンス」
日 時 9月30日(月) 午後6時半~9時半
講演会 午後6時半~8時半 交流会 午後8時半~9時半
場 所 大阪産業創造館・6階会議室B
講 師 藤田幸一・京都大学東南アジア研究所教授
赤畑俊一・第一コンピュータリソースグローバルサービス事業本部長
(聞き手)林茂樹・関西ベンチャー学会会長
内 容
国内市場の縮小などに直面する日本はじめ先進国は、新たな市場や生産拠点を求め、ミャンマー、バングラデシュ、ラオス、カンボジアなど新・新興国への進出を加速させています。そこで、新・新興国論に詳しい京都大学東南アジア研究所の藤田幸一教授と、新・新興国ビジネスで先行するIT企業・第一コンピュータリソースの赤畑俊一グローバルサービス事業本部長に、現状や課題などについてそれぞれ報告をいただきました。
最初に登壇した藤田教授は、まず「東アジア、東南アジア、南アジアの社会構造はそれぞれ異なっており、これらの地域のいわゆる新・新興国でベンチャービジネスを軌道に乗せるためには、日本とはどういう国かを知り、実際に現地に行って日本との文化の違いを体で理解することが重要」と強調。「文化の全く違う国でのビジネスには根性が必要であり、大阪商人の根性を受け継ぐ関西人にこそ出番がある」と語りました。
その上で、特にバングラデシュとミャンマーの2国について、「バングラデシュは階層性の強い社会で、あまり勤勉とは言えない国民性を持っている。ミャンマーは王朝時代から続く極端なトップダウン方式が浸透しており、同じ東南アジアでも、タイとは違って融通の利かない国民性がある」と、特徴を述べました。具体的には「バングラデシュは最近の経済成長率がおよそ6%に達する国となっているが、輸出の大半を縫製品に頼っている。かつて非常に低かった女性の労働参加率が1980年代半ば以降目覚しく増え、その女性たちの低賃金労働を支えに縫製業が急成長した」と解説。「まだ政治が不安定でゼネストが頻発し、治安も悪い。役人の汚職も横行している。首都ダッカの交通混雑、主要港湾のチッタゴン港の施設狭隘・老朽化、深刻な電力不足など、インフラにも様々な問題を抱えている」と問題点を指摘しながらも、「それでも海外からの投資は増えている。縫製業には広い裾野産業が存在し、発展をしているし、将来は中間管理部門の労働者の増加、一般大衆の貧困削減・購買力向上なども予想されるためだ」と期待を語りました。
ミャンマーについては「軍政から民政への移管を果たしたものの、まだ古い政治経済制度が残っており、インフラの未整備、産業基盤の弱さ、ヤンゴンの道路混雑・ホテル事情の悪さなどの問題もあるものの、多様で豊かな自然農業資源があり、中国とインドの緩衝地帯という地政学的に重要な位置に存在する国というメリットがある。豊富で案かな労働力があり、消費市場としての魅力もある」と解説。特に「今後は農業、アグロインダストリーにチャンスがある」と強調しました。
続いて登壇した赤畑氏は、自身が社長を務めるミャンマーの現地法人・ミャンマーDCRについて、「2008年に100%日本資本の企業としてヤンゴンに設立した会社。アプリケーション・ソフトウエア開発や、ミャンマーに進出した日本の大手銀行や航空会社などに向けたネットワークサービスなどを手掛けている。日本人スタッフ5名のほか、ミャンマー人スタッフが202名いるが、公用語は日本語。トップレベルの大学・大学院から優秀な人材を採用しており、入社前からIT技術や日本語の研修を実施しているため、スタッフの日本語スキルは高い」と、概要や特徴を説明しました。
日本企業としてはいち早いミャンマー進出を決断した理由については、「先に進出していた中国で人件費が高騰し、次なるオフショア開発拠点が必要となったため、高い潜在能力と将来に対する可能性を持つミャンマーに注目した」と語り、「ミャンマーは人件費が安く、当時は日本から進出している同業者がほとんどなかったため、先駆者としてのアドバンテージも得られると考えた」と述べました。さらに、「優秀な人材が集まること、親日的なこと、仏教国・農耕民族で日本人と親和性があること、インフラは未整備だかネットでの情報交換は可能なこと、人々は勤勉で仕事や将来の目標に対するモチベーションが高いこと、ミャンマー語の文法が日本ごと似ており日本語の習得が早いこと」などを、ミャンマーの人材を活用したビジネスの魅力として挙げました。
ただ、「インフラが整備されていないこと、戦力となる人材を育成するのに時間と労力がかかること、政治的なカントリーリスクが残っていること、ビジネスの自由度が制限されており、特に外資に対する各種許認可の取得に非常に時間がかかること」などのデメリットも挙げ、「改善されつつあるものの、現地で調達できるコンピューター設備やネットワーク設備が限られている」とも指摘しました。その上で「ミャンマーでビジネスを展開するためには、現地の各種組織との密接なリレーションシップ、同業他社(現地企業)との明確な住み分け、ITインフラ状況を踏まえた情報システムの確立、JETRO、ヤンゴン日本人商工会議所、ヤンゴン日本人会を含めた日本企業とのリレーションシップ、決定事項の明確化・文書化などが重要」と、ミャンマービジネスにおける留意点を強調しました。
藤田教授、赤畑本部長の報告の後は、関西ベンチャー学会の林茂樹会長の司会で、会場参加者を交えた質疑応答に移行。ミャンマー、バングラデシュの現状や特徴、投資先としての魅力、デメリットなどについて、両講師と林会長との間で突っ込んだ形の質疑応答が展開され、会場からも活発な質問が出されました。講演会終了後は、講師を交えての交流会となり、参加者同士の情報交換の輪が広がりました。