第35回医療・福祉研究部会のご報告

第35回医療・福祉研究部会のご報告

 第35回医療・福祉研究部会が、6月24日(月)午後6時30分から、大阪産業創造館6階会議室Cで、「医療・福祉と法律」をテーマに開催され、アーカス総合法律事務所の末永京子弁護士による「医事紛争に関する考察」と題した報告が、質疑応答を交えながら行われました。

 末永弁護士による報告の概要は次の通りです。

 医療事故・医療過誤について現場の実例をいくつか挙げ、不可避的に発生する事件・過誤が起きた時にどうすればいいかについて、考えを述べてみたい。医療事故とは医療の現場で起きるすべての人身事故のことを指し、過誤・過失の有無は問わない。医療過誤とは医療事故の1類型で、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為のことである。医療事故に法律が絡むケースとしては①民事責任が問われるケース②行政処分が下されるケース③刑事罰が科せられるケースーーがある。

 民事責任を問う場合の目的は、責任の有無の確定と被害者の損害の回復である。当事者としては、責任を問う側として患者本人、親族、相続人(患者が死亡した場合)、問われる側として医療機関、医師が挙げられる。医療機関、医師の双方が主体となりうることに注意すべきである。民事責任を問う手段としては①裁判所外の直接交渉②ADR(裁判外紛争解決手段)③調停④訴訟ーーの4つがある。重要なのは医療機関や医師に責任原因があるかどうかだ。医療過誤とは医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為のこと、つまり、医師の注意義務に違反する行為により患者に損害という結果が発生したことが認められなければならない。医師の行為と患者の損害との間に因果関係があることが必要である。注意義務の程度は専門的知識・技術を有する平均的医師を基準に定められ、その内容は診療当時の臨床医学の実践における医療水準となる。因果関係の立証の程度は一般の民事訴訟と異ならない。具体的には10人中8~9人が真実性の確信を持ちうるまでの明確な証明が求められる。

 最近の医事関係訴訟の処理状況をみると、判決よりも和解の方が多くなっている。また、判決の認容率(原告側の請求が1部でも認められた判決の割合)は、維持関係訴訟の場合2割台にとどまっている。通常の民事訴訟では8割台に達しているのに比べるとかなり低い。医療事故の場合、因果関係の立証がいかに難しいかが数字の上でも読み取れる。最近の医療過誤事件の具体的事例としては、医師の作為による場合として、イレウス(腸閉塞)のため胃管を挿入した患者が吐しゃ物をのどに詰まらせて死亡したケースがあった。このケースでは、訴訟外交渉の結果、患者側の勝訴的示談が成立した。また、医師の不作為によるケースとしては、胃がんの見落としというケースがあり、このケースでは訴訟外交渉から民事調停に進んだが、訴訟提起は断念せざるを得なかった。また、出血性ショックによる突然死というケースでも、患者側の敗訴的和解という結果になっている。このように特に医師の不作為による損害は、患者側が勝訴することはなかなか難しい。

 医療事故・医療過誤は不可避的に発生するものである。患者側は、医療は万能ではないということを理解する必要があるし、医療機関・医師側も、患者への説明の仕方に工夫が要る。医事紛争は証拠がすべて医療機関側に偏在しており、専門性も高いことから、患者側には大きな壁が存在する。しかし、患者側の心情としては、それで納得するということはなかなかできないものである。双方が冷静になって対応していくということしかないと言えよう。

以上です。

医療・福祉研究部会幹事 坂川弘幸 

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