今、観光地で起きているコト ☞ 誰がどうする ーアンケート調査を参考にー
(2021年9月13日 参加者40名)
https://note.com/masaru_hoshino/n/n1bc9338aea67
訪日外国観光客の急増、そして2014年には、インバウンドがアウトバウンドを超え、インバウンド時代の幕開けとなりましたが、2020年、新型コロナによりインバウンドは停止しました。
インバウンドの増加とともに、特定の観光エリアでは観光客を受け入れるキャパシティを超 2019年、日本国際観光学会に「オーバーツーリズム研究部会」を立ち上げ議論を重ねてきました。人流が止まった今だからこそこの問題にじっくり取り組めるのではないかと、現状と課題を鮮明にすべく実施したアンケート調査の結果をお話しさせていただきます。オーバーツーリズムにおける観光地の課題を考えるにあたっては、商品のライフサイクルをモデルにした「バドラーの観光地ライフサイクルの概念図」が基本的な考え方となっています。
京都市、鎌倉市、川越市では外国人観光客はいずれも急増傾向にあり、国と同じ傾向を示しています。しかし、京都市と鎌倉市は観光客全体数が近年減少傾向を示しており、これは日本人観光客がかなりの割合で減少していることを示すもので、注目すべき一つの課題です。また、川越市は全体の観光客は増加傾向にありますが、観光客数の多さを追求するのみでは、オーバーツーリズムによる観光公害とも呼べる状況が生じるのではと危惧されます。
自治体の課題を議論する場である市議会の議事録から、「観光+外国人」「観光+マナー」に対する発言、「観光+混雑」「観光+渋滞」「観光+ゴミ」「観光+トイレ」という発言を見ますと、京都市と鎌倉市では観光客の増加に伴い、これらの発言も量的、内容的に変化が見られますが、川越市ではまださほど問題とされていない状況にあります。
川越市は、人口35万4千人、都心から30kmに位置し、ベッドタウンとして人口増加が続いています。江戸時代、舟運により商業の町として発展し、江戸文化が残されており、「小江戸・川越」と称されています。町並景観は、明治26年の大火後に建築された外壁を黒漆喰塗とした蔵造の商家建築が主役になります。ここは川越商業の中心地でしたが、交通の発達とともに中心は駅周辺に移り、1950年代~1970年代にかけて衰退していきます。1970年代初頭、町並みの価値の再発見、そして、1980年代の住民が主体となった「活用と保存」活動の高まりに伴い、まちが活性化していきます。1989年のNHK大河ドラマ『春日局』で注目が集まり、首都圏を中心とする年間730万人の観光客が訪れる観光地になっていました。
アンケートは、観光地のステークホルダーである「観光事業者と住民(観光事業者ではない)」を対象に実施しました。共に、歴史文化のあるまちへの誇り、そしてアイデンティティの強さがうかがわれますが、観光事業者と住民間には現状認識に違いがあることも明らかになりました。事業者はもっと観光客が増えることを望み、住民はこれぐらいでいいと思っています。有名になることで経済が潤ったと捉える事業者、注目されて誇りに思う住民の姿が見えます。
9割近くが「今後オーバーツーリズになる」と予測しており、 観光客が増えることで想定されるプラス面は「経済や地域の活性化」ですが、マイナス面は「混雑問題」と「ゴミ問題」、次いで町の「イメージダウン」や「らしさが失われる」ことと言及しています。
また、注目したいのは、住民の声の中に「観光客への迎合は、結局は観光客に見放される」「観光地の評価が上がり、地価が上がることで商業活動の低下を招く可能性がある」との声が有ることです。すなわちこの地の価値の低下です。
(コロナ前の)観光地としての課題認識では、「混雑」「危機対応」と「食べ歩き」を問題とする方が多い結果となりました。「混雑」については、行政では「一方通行」を何度も試みますが、総論賛成、各論反対で実施には至っていません。また食べ歩きに伴う「ゴミ問題」は、事業者の自助・共助努力がなされている一方、「食べ歩きのゴミは産業廃棄物」「税金を使うのは」の声、「ゴミ箱の設置はゴミの元」との意見もあり、これらも結論が出るには時間を要するでしょう。
近年、「食べ歩きのまち川越」としてメディアで取り上げられることが多く、食べ歩き食品を買い求める人の行列、歩きながら食べる姿が非常に目立ちます。
A~Dの立場の違いによってとらえ方が大きく異なっていますが、共通するのは 「まちのイメージに良くない」ことから、「マナー」として観光客に協力を求める意見や「ゴミ箱の設置」の意見が出ています。観光客も単に「お客様」ではなく、ステークホルダーの一員として、観光地の価値を持続させることに関与し、その責任の一端を担うことが求められているのではないでしょうか。
観光地には、「観光客」「事業者」「住民」「行政」それぞれのステークホルダーがいます。観光地は「人」と「文化」の交差点とかしなければ」の意見が出ては消える状況が続いています。
今回事例として取り上げた川越市に限らず、観光客の多さは地域を元気にしてくれますが、同時に自然環境や人びとの生活環境にも影響をもたらします。消費対象としての観光地でなく、地域の価値を持続し、観光地としての魅力を保ち続けることが求められます。交流人口を増やし経済効果を図りつつ、ネガティブな現象を回避する対策をとる必要があります。
ポストコロナの観光は、持続可能な観光(SDG s)の観点や、観光地の人たちだけではなく、観光客も共に責任を担うレスポンシブルツーリズムを実践することではないでしょうか。そして、その地が積み重ねてきた歴史、文化、人々の生業といった地域の文脈を踏まえた新しい価値を積み重ねていくことではないでしょうか。
【ディスカッション】
金子:私は、川越の隣接地域に住んでいます。私の記憶では、川越が便利になったのは埼京線開通などでアクセスが改善された約30年前で、観光地化したのが10年くらい前からだと思います。川越市民には、「古くから住んでいる市民」、埼京線が通って「住みやすくなったから移住してきた市民」、「観光地になって入ってきた市民」の3パターンがあり、“亀屋”のような地元銘菓の老舗は観光客も歓迎だが、地元民住民を客としていた古くからの商店は困惑しており、観光地化してから入ってきた事業者さんは「稼ぎたい」と思っておられる。この渾然一体となっているのが川越であり、観光を研究するのには非常におもしろいモデルだと思います。
野杁:川越の家主さんと入居事業者との関連はいかがでしょうか? 長い目で見て価値を上げていきたいので、良い事業者に入ってもらいたいと思う家主さんもおられるでしょうか?
井上:調べたことが無いのでどのような関係になっているかの現状はわかりません。私の印象ですが、町並みに新しく入られる事業者さんは、全国展開される店舗などが多く、地域のことを考えて入ってこられる事業者さんは、少ないと思っています。ただ、商業を営んでいく過程で、町への関心を深め、商店街の会で積極的に活動されている方もいらっしゃいます。蔵造をテナントとするのはいろいろな経済的理由がありますが、とはいっても、文化財保護法の「伝統的建造物群保存地区」となっていて、改修・修復などに何らかの公費助成も受けていることを考えれば、経済性だけを優先することには疑問を感じています。ここ10年ぐらいでしょうか、町並みの通りからちょっと外れた通りでも、普通の民家がお店になってきています。
金子:川越も、蔵の街から少し離れた地域で「古い建物を守ろう」という“家守会社”を作っているグループもいます。古い建物をリノベーションしている会社なので、家主の許可を得て、リノベーションして地域と共生できる事業者さんに入居してもらっている地域もあります。川越の蔵町の周辺にも古い建物がたくさん残っているので、エリアを広げて考えると良い地域になりそうです。
清水:弟の嫁が川越で古着屋をやっており、川越のまちづくりについて相談を受け、アドバイスさせてもらったその一つが「電柱を無くすこと」であり、もう一つが「古い料理をきちんと残すこと」でした。京都でも「無電柱化」を推進し、「古い料亭」は流行っています。また京都の五条坂には「食べ歩きのお店」がほとんどありません。それが出来た理由は、「売りに出た物件をすぐに地元団体が購入して、自分たちの眼鏡にかなった人しか入居させない」としたからです。自分たちの街を、自分たちで守らないと無茶苦茶になってしまいます。
佐竹:オーバーツーリズムになるのは日帰り観光客の問題です。宿泊客だけではキャパオーバーになることはありません。私がJAL京都支店にいた時、“アンノン族”でオーバーツーリズムが起こりました。近所のお店にお客さんが殺到して、一旦営業を停止した後、値段の高いランチメニューが作られました。この時、常連客にクーポン券を配り、クーポンを使うと従来の価格で食べられる仕組みとされたのです。ここで大切なのは「常連客(リピーター)を大切にした」と言うことです。川越も誰がリピーターのお客様かを考える必要があると思います。「商人の会」が、住民意識を一つにしていく合意形成の場であってくれれば良いのですが…。
金子:「川越カイギ」というまちづくりの会議のモデルは熱海です。熱海は、かつては新婚旅行のメッカ、次は団体旅行のメッカ、そして男性の旅行のメッカと変遷した後、衰退しました。今のお客さんは若い人ばかりです。年寄りは住んでいる方です。そして若い事業者のメンバーが「熱海カイギ」と言う場を作り、市長も商工会議所もバックアップして、街が変わっていきました。「川越カイギ」は、商人の会だけでなく、蔵の街だけではなく市内の幅広いエリアの市民等が参加しているものです。
星乃:私はアンケート調査結果から、合意形成しやすいのは「食べ歩き」ではないかと思いました。ステークホルダーが大勢おられると言うのも、どこも共通なので、合意形成しやすいものを求めていく議論をされたら良いのではと思いました。
釼菱:舞鶴でも観光客を呼び込もうとしていますが、宿泊施設はこれまでビジネスホテルしかありませんでした。そこにゲストハウスなどができ始め、これから宿泊施設の多様化が進めばと思っています。宿泊施設が無いとリピーターを作れないという問題も感じます。
佐竹:宿泊施設は最大の経済効果をもたらしますので多様化していくことは大切です。また、宿泊観光客に24時間満足させるものを用意しなければならないので、満足できるものを整えるのも大切です。地域に魅力がなければ宿泊客は来てくれません。
野口:奈良で「観光の目的」について議論した時、「人と人との交流であろう」と言うことになったのを思い出しました。川越の話を聞いて、地域の観光に思いを持つ次の担い手たちの議論する場があれば良いなあと感じました。
遠藤:オーストラリアは行政の力が強いので、ロックダウンのように強い強制力も発揮できますが、川越のように、地域のステークホルダーの人がディスカッションして合意形成していくことの大切さも、今日、楽しく勉強させていただきました。一つ気になったのが「旅行者の視点」です。旅行者の方とのコミュニケーションも取り入れていただけるとより良くなると思いました。
佐竹:日本も80年代に海外旅行ブームになりたくさん恥をかきました。それを旅行者にどう伝えるのかディスカッションして「実態をフィードバックするしかない」、その伝え方は “ささやき”が一番だと言うことになりました。例えば、ディオールの店でネクタイを「ここからここまで全部」と買ったOLがいたとして、それを見たパリジャンが「あの人は凄い、ボーイフレンドがあんなにいるんだ」と語ったと、旅行会社の人に“ささやく”と、旅行会社の人は説明会で「とっておきの情報です」として伝えてくれる。この情報は「他所では言わないでください」といえば言うほど伝わります。旅人も「このような旅がしたい」という思いを持っておられるので、「日本では、このような旅のスタイル」というような台本を作ることが大切だと思いました。