文化観光研究部会は、NPO法人スマート観光推進機構の「観光のひろば」との共催として開催しています。第60回と61回はZOOMを使用してオンラインで開催しました。以下ご報告です。
第60回文化観光研究部会
日時:2020 年 6 月10 日(水)19 時 〜 21 時
ゲスト: 株式会社インプリージョン 代表取締役 オダギリサトシさん
テーマ:「ウイズコロナ・ポストコロナの観光」
オダギリさんの講演内容
オダギリさんは、都市型着地型観光䛾プランナーで、毎年 50 万人〜60 万人の観光受入れを行っており、そのプランナーの経験を生かして、日本全国の自治体の観光集客アドバイザーやコンサルタントをされています。オダギリさんの理念をひとことで言えが『地域のファンを作る』だそうです。
今、「オンラインツーリズム」が流行っています。オンラインクルーズ、オンラインワイナリー見学、オンラインスナック、オンライン宿泊、オンライン生産者お取り寄せ、オンライン移住などを経験されており、「旅まえプロモーション」として䛿大変有効な手段だと考えておられます。とはいえ、物理的な距離がなくなるので無限の可能性を秘めており、やり方次第では新しい文化を創るかも知
れない。ただし“オンラインだけでいくら払ってもらえるか?”と“利用者の ITC スキル”が課題と話されました。
「ポストコロナの観光」は、見る・食べる・遊ぶ・体験する「観光」から、地元の人と来訪者の交流による「関係」へ変化しようとしている。地域の人と時を一緒に過ごし、思い出を共に作り、SNSを通じて友達になること。これこそがリピート訪問のキモであり、そのため「ふるさとシェアリング株式会社」を令和1年に設立されたといいます。
移住はハードルが高く、旅行以上に満足度が高い、“旅行以上、移住未満”。これが「地域のファンを作る」ことだといい、会員制コミュニティ「ふるさとシェアリング」で構築するといいます。東京在住の東京出身者で「ふるさとと呼べる場所がない」方が41%いるそうです。これは首都圏の人口割合で見ると 1252 万人もいるということになります。
「ふるさとシェアリング」の事業は、都会と地方をつなぐオンラインコミュニティを運営し、ふるさとからのお取り寄せ、ふるさとの空き家に泊まり・交流するお手伝いをして、現地でいろいろな体験を通じて一緒の時間を過ごしてもらうことだそうです。
都会の人が地域に関心を持っても、そこに介在する人との関係が無けれは、コミュニティは成立しません。この人との関係をオダギリさんの新会社でしっかりサポートし、コミュニティを作り上げるというのがこの事業のキモです。
そして「ふるさとからのお取り寄せ」では、地元だけで消費される有機野菜や、沢山獲れた魚の自家製干物などを、普段からお取り寄せし、まるで親戚から送ってもらったようなお裾分け気分を楽しむといいます。また「地方にある空き家」を有効活用して、地域の暮らしを感じるようにリフォームし、この空き家に泊まって、地域の方と交流するといいます。
都会の方の「釣りしてみたい」「子どもにカブトムシを捕らせたい」との要望から、地元の方の「祭りを手伝って欲しい」「収穫の手伝いをして欲しい」まで、双方の要望を叶え。ボランティアのものから有償のイベントまであると思われるようです。
今、和歌山県のすさみ町と京都府京丹後市網野で企画が進んでいます。「ふるさとシェアリング」の、入会金と月額費用でまかない、清掃サービスは地元の方に有償でお願いし、食事は自分で手配し、アクティビティも、地元の方との関係ができているので多様なもの
が提供されます。メインは「地元の方との交流」で、一緒に釣った魚を、調理法を学びながら、一緒に食べるなどが醍醐味だと話されました。
最後に、いきなり移住を促すのはハードルが高い。「ふるさとシェアリング」で関係性を増やしながら、最後に「移住」を考える人も出てくる。このように「関係人口」を増やすことが重要だと話を締めくくられました。
第61回文化観光研究部会
日時:2020年8月5日 (水) 19時 ~21時
ゲスト:大阪産業経済リサーチ&デザインセンター 山本敏也さん
テーマ:ウィズコロナ・ポストコロナの観光②
~関係人口から考える観光~
山本さんの講演内容
人口減少時代を迎えていますが、東京圏は2019年に約14.6万人で24年連続の転入超過で、大阪圏は3857人と7年連続の転出超過となっています。市町村の移住・定住促進施策は1970年頃に始まりますが、2015年度は111団体と急増しました。起爆剤になったのは、2014年に発表された「増田レポート」です。増田レポートでは、全国1,799の市町村(2010年時点)のうち、2010〜40年にかけて20〜39歳の若年女性人口が5割以下になる市町村は、896に及ぶと指摘されました。
これにより政府は、移住・定住施策に取り組み、総務省は「地域おこし協力隊」を2009年度に制度化しました。「地域おこし協力隊」は、地方自治体の委嘱を受けて、国から生活費などの支援を受けながら過疎や山村に移住し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PRに従事する仕組みで、隊員数は11年で約60倍になっています。また、隊員へのアンケートによれば、 任期終了後に「定住する予定」と考えている人は54%を占め、定住希望者は「起業」を希望される方が53.6%を占めます。
「地域おこし協力隊」の課題は収入の少なさです。隊員1人当たり年間400万円の支給が上限となっており、兼業・副業する隊員も多いといいます。私の概算では、国による支出は19年度には約214億円(400万円×5349人)。一方、定住者増の効果は約67億円(年間消費額125万円×5349人)となります。
そのような中で「移住でもない、旅行でもない」、故郷などルーツがあり地域に関わる人、頻繁にその地域を訪れる人、地域に心を寄せる人など、「関係人口」という考え方が生まれてきました。農業などに興味を持つといったライフスタイルの多様化、ICTの進化などが背景にあるといいます。
移住には、移住先を決めて移住するパターンもありますが、訪問 ➡ 購入 ➡ 寄付 ➡ リピート訪問 ➡ 二地域居住 ➡ 移住 とプロセスを経るパターンもあり、自治体も「関係人口」を増やそうとしています。ただし、定住を関係人口の着地点に置かない方が、都市部と地方の交流を促す方法をより多面的に考えることが可能になります。
その一例として、石川県羽咋はくい市の「烏帽子よぼし親制度」があります。これは、血縁関係がないもの同士の擬似的な親子関係のことです。能登地方に中世から残る伝統で、この考え方が都市住民の宿泊受け入れに適用されました。法政大学の農家合宿では、学生が合宿で訪れた後も農家との交流が続いたそうです。また、栃木県鹿沼市ではカフェを経営するUターン起業家が、常連客の開業やIターン者の移住を支援し、関係人口の受け皿として機能した事例もあります。
今、地方創生に求められるのは、都市部と地方の住民が共感や価値観をベースにつながることです。幸いにも、ICTの進歩によって、クラウドファンディングをはじめ、地域に関わりたい人々を全国から募る仕組みが整ってきました。小さな地域で定住者を奪い合うのではなく、共感や価値観に基づくネットワークを通じて、多様なコミュニティを担保することが肝要だと思っています。